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GLP-1製剤によるダイエット効果と適応〜専門医が解説する真実

[2025.09.29]

GLP-1製剤とは?〜糖尿病治療だけではなく注目のダイエット薬へ

GLP-1製剤は、本来2型糖尿病の治療薬として開発されました。GLP-1(Glucagon-Like Peptide-1)は、食事をすると小腸から分泌されるホルモンで、血糖値を下げる働きがあります。このホルモンには食欲を抑える作用もあり、それが体重減少効果につながっています。

近年、この薬剤の強力な体重減少効果が注目され、「GLP-1ダイエット」として広く知られるようになりました。特にSNSでの口コミやメディアでの取り上げられ方から、「手軽にやせられる夢の薬」というイメージが広がっています。

しかし、医学的な観点から見ると、GLP-1製剤の使用には適切な適応と管理が必要です。単なるダイエット薬として安易に使用することには、重大なリスクが伴います。私は糖尿病専門医として、この薬剤の正しい理解と適切な使用について解説したいと思います。

GLP-1製剤の種類と作用機序

現在、日本で使用されているGLP-1製剤には、主に以下のようなものがあります。

  • GLP-1受容体作動薬:リベルサス(セマグルチド・内服薬)、ウゴービ(セマグルチド・注射薬)、オゼンピック(セマグルチド・注射薬)など
  • GIP/GLP-1受容体作動薬:ゼップバウンド(チルゼパチド・注射薬)、マンジャロ(チルゼパチド・注射薬)など

これらの薬剤は、体内のGLP-1受容体に作用することで、以下のような効果を発揮します。

  • 膵臓からのインスリン分泌を促進(血糖値を下げる)
  • 胃の動きを緩やかにして満腹感を持続させる
  • 脳の食欲中枢に働きかけて食欲を抑制する
  • 肝臓での糖新生を抑制する

特にGIP/GLP-1受容体作動薬は、GLP-1だけでなくGIP(Glucose-dependent Insulinotropic Polypeptide)という別のホルモン受容体にも作用するため、より強力な効果が期待できます。

これらの複合的な作用により、GLP-1製剤は血糖コントロールを改善するだけでなく、体重減少効果ももたらします。特に食事量の自然な減少と満腹感の持続が、ダイエット効果の主な要因となっています。

GLP-1製剤の体重減少効果〜臨床研究からわかること

GLP-1製剤の体重減少効果については、多くの臨床研究で確認されています。特に注目すべきは、日本人を対象とした研究結果です。

横浜市立大学の研究グループが2023年に発表した論文によると、日本人の2型糖尿病患者に対するリベルサス(セマグルチド内服薬)の効果は、プラセボ(偽薬)と比較して、最大用量(14mg)で平均2.62kgの体重減少が認められました。

一方、より強力なGIP/GLP-1受容体作動薬であるマンジャロ(チルゼパチド)では、海外の臨床試験において、他のGLP-1製剤よりも大きな体重減少効果が報告されています。

肥満症治療薬としての位置づけ

日本では2023年11月に、ウゴービ(セマグルチド注射薬)が肥満症治療薬として薬価収載されました。続いて2025年3月には、ゼップバウンド(チルゼパチド注射薬)も肥満症治療薬として承認されています。

日本肥満学会は「肥満症治療薬の安全・適正使用に関するステートメント」を発表し、これらの薬剤が肥満症(健康障害を伴う肥満)の治療に有効であることを認めています。

しかし、重要なのは「肥満症」と単なる「肥満」は異なるという点です。肥満症とは、BMI 25以上で健康障害を伴うものを指します。単に見た目や美容のために体重を減らしたいという場合は、医学的な治療の対象とはなりません。

日本人における効果の特徴

興味深いことに、日本人は欧米人と比較して、GLP-1製剤の血糖降下作用がより強く現れる傾向があります。横浜市立大学の研究では、リベルサスのHbA1c改善効果は海外の研究よりも大きいことが示されています。

一方で、体重減少効果については、日本人は元々肥満の方が少ないため、欧米の研究ほど劇的な効果が得られない可能性があります。これは、薬剤の効果が初期体重と関連している可能性を示唆しています。

GLP-1製剤の適応と使用上の注意点

GLP-1製剤は強力な薬剤ですが、誰にでも適しているわけではありません。適切な使用のためには、以下のような点に注意する必要があります。

適応となる患者

日本では、GLP-1製剤は以下のような患者に適応があります:

  • 2型糖尿病患者(血糖コントロール目的)
  • 肥満症患者(BMI 35以上、または27以上で健康障害を伴う場合)

特に肥満症治療薬としては、厚生労働省が策定した「肥満症の効能又は効果を有するセマグルチド製剤に係る最適使用推進ガイドライン」に基づき、適切な施設での使用が推奨されています。

使用上の注意点と副作用

GLP-1製剤には、以下のような副作用が報告されています:

  • 消化器症状:吐き気、嘔吐、下痢、便秘
  • 頭痛、めまい
  • 注射部位反応(注射薬の場合)
  • 重大な副作用(まれ):急性すい炎、低血糖、胆石症

これらの副作用は、特に治療開始時や増量時に現れやすいとされています。そのため、少量から開始し、徐々に増量していくことが一般的です。

特に注意すべきは、2型糖尿病ではない方への使用です。糖尿病ではない方がGLP-1製剤を使用した場合、低血糖のリスクが高まる可能性があります。実際に、「GLP-1ダイエット」で低血糖となり救急搬送された例も報告されています。

医師による定期的な経過観察と、異常が認められた場合の迅速な対応が不可欠です。

「GLP-1ダイエット」の問題点と危険性

近年、「GLP-1ダイエット」として、美容やダイエット目的でGLP-1製剤を使用する動きが広がっています。しかし、これには以下のような重大な問題点があります。

適応外使用の危険性

日本糖尿病学会は「GLP-1受容体作動薬および GIP/GLP-1受容体作動薬の適応外使用に関する日本糖尿病学会の見解」を発表し、ダイエットや美容などを目的とした適応外使用は慎むよう勧告しています。

その理由は明確です。これらの薬剤は2型糖尿病患者や肥満症患者に対する安全性と有効性は確認されていますが、健康な人や単なる美容目的での使用については、十分な安全性データがないのです。

不適切な処方と健康被害

特に問題なのは、オンライン診療などを通じた安易な処方です。NHKの特集によれば、「運動や食事制限の必要なし」「簡単にやせられる」といった甘い謳い文句で宣伝され、短時間の問診だけで処方されるケースが報告されています。

このような不適切な処方により、重篤な健康被害が生じた事例も報告されています。ある50代女性は、オンラインクリニックでGLP-1製剤を処方され、半年間使用した後に急性すい炎を発症し、入院・手術を余儀なくされました。

また、医薬品医療機器総合機構(PMDA)も、GLP-1製剤の適正使用に関する注意喚起を行っています。適応外使用により「思わぬ健康被害が発現する」可能性があるとして、医療関係者・患者ともに適正使用への協力を呼びかけています。

GLP-1製剤を安全に使用するための条件

GLP-1製剤を安全に使用するためには、以下のような条件が必要です。

専門医による適切な診断と処方

GLP-1製剤の使用を検討する場合は、糖尿病専門医や肥満症専門医など、これらの薬剤に精通した専門医の診察を受けることが重要です。専門医は、患者の状態を総合的に評価し、適切な治療法を提案することができます。

当院のような糖尿病認定教育施設では、糖尿病専門医・肥満症専門医・内分泌代謝科専門医が在籍しており、患者さん一人ひとりの状態に合わせた「オーダーメイド治療」を提供しています。

定期的な経過観察と副作用モニタリング

GLP-1製剤の使用中は、定期的な診察と検査が不可欠です。血糖値や体重の変化だけでなく、副作用の有無や全身状態を評価することで、安全に治療を継続することができます。

特に治療開始時や用量調整時には、より頻繁な経過観察が必要です。異常が認められた場合には、速やかに医師に相談し、適切な対応を受けることが重要です。

生活習慣の改善との併用

GLP-1製剤は「魔法の薬」ではありません。最大の効果を得るためには、適切な食事管理と運動習慣の改善が不可欠です。薬剤の効果に頼りきるのではなく、生活習慣全体の見直しを行うことが、長期的な健康維持につながります。

当院では、医師・看護師・管理栄養士がチームとなって患者さんをサポートし、薬物療法と生活習慣改善を組み合わせた総合的なアプローチを行っています。

まとめ:GLP-1製剤の適切な使用のために

GLP-1製剤は、適切に使用すれば2型糖尿病や肥満症の治療に非常に有効な薬剤です。しかし、その強力な効果ゆえに、安易な使用や適応外使用には重大なリスクが伴います。

「簡単にやせられる」という謳い文句に惹かれて、安易にオンライン診療などで処方を受けることは避けるべきです。特に健康な方や、単に美容目的での使用は推奨できません。

GLP-1製剤の使用を検討する場合は、必ず糖尿病専門医や肥満症専門医の診察を受け、自分の状態に適した治療法かどうかを相談することをお勧めします。

当院では、日本糖尿病学会認定の糖尿病認定教育施設として、糖尿病専門医・肥満症専門医による専門的な診療を提供しています。GLP-1製剤を含む最新の治療法について、お気軽にご相談ください。

健康的な体重管理は、一時的なダイエットではなく、長期的な生活習慣の改善と適切な医学的管理によって達成されるものです。専門医と管理栄養士による三人四脚で、安全で効果的な治療を進めていきましょう。

いんざい糖尿病・甲状腺クリニックでは、糖尿病・肥満症の専門的治療を提供しております。お気軽にご相談ください。

【著者情報】

院長 髙橋 紘(たかはし ひろし)

いんざい糖尿病・甲状腺クリニック 院長。
日出学園小学校、攻玉社高等学校を経て、埼玉医科大学医学部医学科を卒業。東京慈恵会医科大学大学院医学系研究科を修了し、医学博士を取得。

2010年より東京慈恵会医科大学附属病院にて初期研修を開始し、その後、糖尿病・代謝・内分泌内科を専門に臨床・教育・研究に従事。富士市立中央病院や東京慈恵会医科大学附属第三病院での勤務を経て、2023年からは同附属病院糖尿病・代謝・内分泌内科にて外来医長を務める。2024年6月、千葉県印西市に「いんざい糖尿病・甲状腺クリニック」を開院。

また、東京慈恵会慈恵看護専門学校や日本看護協会看護研修学校で非常勤講師として教育にも携わる。

資格・所属学会

医学博士

日本内科学会 総合内科専門医

日本糖尿病学会 糖尿病専門医・指導医

日本内分泌学会 内分泌代謝科専門医・指導医

日本肥満学会 肥満症専門医

難病指定医

小児慢性特定疾患指定医

 

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