甲状腺の異変に気づく!自宅でできる10の初期症状チェック法
甲状腺の異常は、体全体の調子を崩す原因となりますが、初期症状に気づかないまま放置してしまうケースが少なくありません。甲状腺は首の前部に位置する蝶形の小さな器官で、体の代謝を調整する重要なホルモンを分泌しています。
この甲状腺の機能に異常が生じると、全身にさまざまな症状が現れるのですが、その症状が他の疾患と似ていることも多く、見過ごされがちです。
特に日本人は甲状腺の病気にかかりやすいと言われており、早期発見・早期治療が重要となります。今回は、自宅で簡単にできる甲状腺の異常をチェックする方法を10個ご紹介します。
甲状腺とは?その重要な役割
甲状腺は首の前方、のどぼとけのすぐ下にある蝶が羽を広げたような形の臓器です。大きさは縦が約4cm、重さは15g前後と小さいですが、体の健康維持に欠かせない重要な働きをしています。
この小さな臓器から分泌される甲状腺ホルモンは、私たちの体のエネルギー代謝や成長、発育に深く関わっています。いわば「元気の源」となるホルモンなのです。
甲状腺ホルモンには主に「サイロキシン(T4)」と「トリヨードサイロニン(T3)」の2種類があり、これらが全身のほとんどの組織に作用します。
正常な甲状腺は柔らかく、外から触っても分かりにくいものです。しかし、何らかの異常で腫れてくると、手で触れるようになり、症状が進むと首を見ただけでも腫れが分かるようになります。
甲状腺の機能に異常が生じると、ホルモンの分泌量が増えすぎる「甲状腺機能亢進症」や、逆に減ってしまう「甲状腺機能低下症」という状態になります。どちらの状態も、放置すると深刻な健康問題を引き起こす可能性があるのです。
甲状腺異常の主な原因と種類
甲状腺の異常にはいくつかの種類があり、それぞれ原因も異なります。代表的なものをご紹介します。
バセドウ病(甲状腺機能亢進症)
バセドウ病は、自己免疫疾患の一種で、甲状腺ホルモンが過剰に分泌される状態です。体内の免疫系が誤って甲状腺を攻撃することで発症します。
女性に多く見られ、20〜30代での発症が多いのが特徴です。ストレスや出産後などをきっかけに発症することもあります。
橋本病(慢性甲状腺炎)
橋本病も自己免疫疾患の一種で、甲状腺の炎症が慢性的に続く病気です。初期には症状がほとんど現れないこともありますが、進行すると甲状腺機能低下症を引き起こします。
こちらも女性に多い疾患で、中年以降に発症することが多いです。
甲状腺腫(結節性甲状腺腫)
甲状腺の一部または全体が腫れる状態を甲状腺腫と言います。ヨード不足や遺伝的要因、炎症などが原因となることがあります。
結節性甲状腺腫は、甲状腺内に固まりができる状態で、良性のものが多いですが、まれに悪性(甲状腺がん)のこともあります。
甲状腺の異常は、自覚症状がないまま進行することもあります。定期的な健康診断で血液検査を受けることで、早期発見につながることもあるのです。
自宅でできる!甲状腺異常の10のチェック法
甲状腺の異常は、専門的な検査をしなければ確定診断はできませんが、自宅でできる簡単なチェック方法があります。以下の症状が3つ以上当てはまる場合は、甲状腺の異常を疑い、専門医への受診を検討しましょう。
1. 首の腫れや違和感をチェック
鏡の前に立ち、首の前側(のどぼとけの下あたり)に腫れや膨らみがないか確認します。横から見たときに、首のラインに異常な膨らみがないかもチェックしましょう。
水を飲み込むときに、首の前側に動くしこりや腫れを感じる場合は、甲状腺の腫れの可能性があります。
2. 体重変化の確認
食事量や運動量に変化がないのに、急激な体重増加や減少がある場合は注意が必要です。特に、甲状腺機能低下症では体重増加、甲状腺機能亢進症では体重減少が見られることが多いです。
1〜2ヶ月の間に3kg以上の変化がある場合は、甲状腺の異常を疑ってみましょう。
3. 体温・寒暖感覚の変化
甲状腺機能低下症では、基礎代謝が下がるため、常に寒さを感じやすくなります。一方、甲状腺機能亢進症では、代謝が上がり、暑さに弱くなったり、多汗になったりします。
周囲の人と比べて、極端に暑がり・寒がりになった場合は、甲状腺の機能異常の可能性があります。
4. 心拍数の変化をチェック
安静時の脈拍数をチェックしてみましょう。甲状腺機能亢進症では脈が速くなり(頻脈)、甲状腺機能低下症では脈がゆっくりになる(徐脈)傾向があります。
安静にしているのに脈拍が100回/分を超える、または50回/分を下回る場合は、甲状腺機能の異常を疑う理由になります。
5. 皮膚・髪の変化に注目
甲状腺機能低下症では、皮膚が乾燥しがちになり、髪の毛がパサつきやすくなります。また、抜け毛が増えることもあります。
一方、甲状腺機能亢進症では、皮膚が湿りやすく、汗をかきやすくなります。どちらの場合も、これまでと違う皮膚の状態や髪質の変化に気づいたら注意が必要です。
6. 疲労感・倦怠感の程度
甲状腺機能低下症では、慢性的な疲労感や倦怠感を感じることが多くなります。十分な睡眠をとっても疲れが取れない、日中の眠気が強いといった症状が続く場合は要注意です。
反対に、甲状腺機能亢進症では、落ち着きがなくなったり、不安感が強くなったりすることがあります。
7. 便通の変化をチェック
甲状腺機能低下症では便秘になりやすく、甲状腺機能亢進症では下痢や排便回数の増加が見られることがあります。
これまでの排便習慣から明らかな変化があり、それが続く場合は、甲状腺機能の異常を疑う一つの指標となります。
8. 声の変化に気づく
甲状腺が腫れると、隣接する声帯に影響を与え、声がかすれたり、しわがれたりすることがあります。
特に理由もなく声質が変わった、話すとすぐに疲れるようになったといった変化があれば、甲状腺の異常を疑ってみましょう。
9. 目の変化を観察
特にバセドウ病では、眼球突出(目が前に出てくる状態)が見られることがあります。また、まぶたの腫れや充血、目の乾燥感などの症状も現れることがあります。
鏡で自分の目を観察し、以前と比べて目の形や大きさに変化がないかチェックしてみましょう。
10. 精神状態の変化に注意
甲状腺機能の異常は、精神状態にも影響を与えることがあります。甲状腺機能亢進症では、イライラや不安感が強くなり、甲状腺機能低下症では、うつ状態やモチベーションの低下が見られることがあります。
これまでにない感情の変化や気分の落ち込みが続く場合は、甲状腺機能の異常を疑う一つのサインかもしれません。
甲状腺機能亢進症と低下症の症状の違い
甲状腺の異常には、ホルモンが過剰に分泌される「機能亢進症」と、ホルモンの分泌が減少する「機能低下症」があります。それぞれの主な症状を比較してみましょう。
甲状腺機能亢進症の主な症状
甲状腺機能亢進症では、代謝が活発になりすぎることによる症状が現れます。
- 体重減少(食欲があるのに痩せる)
- 動悸や頻脈(脈が速くなる)
- 手の震え
- 暑がり、多汗
- イライラ、不安感
- 疲れているのに眠れない
- 目の突出(バセドウ病の場合)
- 下痢や排便回数の増加
バセドウ病による甲状腺機能亢進症では、特に目の症状(眼球突出、まぶたの腫れ、充血など)が特徴的です。
甲状腺機能低下症の主な症状
甲状腺機能低下症では、代謝が低下することによる症状が現れます。
- 体重増加(食事量が変わらないのに太る)
- 疲れやすさ、倦怠感
- 寒がり
- むくみ(特に顔や手足)
- 皮膚の乾燥
- 髪の毛のパサつき、抜け毛
- 便秘
- 集中力の低下、記憶力の低下
- うつ状態、気力の低下
橋本病による甲状腺機能低下症では、初期には症状がほとんど現れないこともあります。しかし、進行すると上記のような症状が徐々に現れてきます。
このように、甲状腺機能亢進症と低下症では、ほぼ正反対の症状が現れることが多いのです。
専門医を受診すべきタイミング
自己チェックで気になる症状があった場合、どのタイミングで専門医を受診すべきでしょうか。以下のような場合は、早めに内分泌内科や甲状腺専門医を受診することをお勧めします。
すぐに受診すべき症状
次のような症状がある場合は、できるだけ早く医療機関を受診しましょう。
- 首に明らかな腫れやしこりがある
- 呼吸や嚥下(飲み込み)が困難
- 声がかすれて改善しない
- 急激な体重変化(増加または減少)
- 極度の疲労感や脱力感
- 安静時の脈拍が100回/分を超える
- 目の突出や激しい充血
特に首のしこりや腫れは、甲状腺がんの可能性もあるため、早めの受診が重要です。
経過観察してもよい症状
次のような症状は、1〜2週間程度様子を見て、改善しない場合に受診を検討しましょう。
- 軽度の疲労感や倦怠感
- 軽い寒がりや暑がり
- 軽度の皮膚の乾燥
- 軽い便通の変化
- 一時的な気分の落ち込み
これらの症状は、ストレスや生活習慣の乱れ、季節の変化などでも起こり得るものです。しかし、症状が続く場合や、複数の症状が同時に現れる場合は、甲状腺の異常を疑って受診しましょう。
甲状腺検査の種類
医療機関では、主に以下のような検査で甲状腺の状態を調べます。
- 血液検査:甲状腺ホルモン(T3、T4)や甲状腺刺激ホルモン(TSH)の値を測定
- 超音波検査:甲状腺の大きさや形状、しこりの有無を確認
- 甲状腺自己抗体検査:バセドウ病や橋本病などの自己免疫疾患を診断
- 針生検:甲状腺のしこりが見つかった場合、細胞を採取して良性か悪性かを調べる
これらの検査結果をもとに、適切な治療方針が決定されます。
甲状腺の健康を守るための日常生活のポイント
甲状腺の健康を維持するために、日常生活で気をつけたいポイントをご紹介します。
適切なヨード摂取
甲状腺ホルモンの合成には、ヨードが必要不可欠です。日本人は海藻類を多く摂取するため、一般的にはヨード不足の心配は少ないですが、極端な偏食や特殊な食事制限をしている場合は注意が必要です。
ただし、過剰なヨード摂取も甲状腺機能に悪影響を与えることがあるため、サプリメントなどでの過剰摂取には注意しましょう。
ストレス管理
強いストレスは、甲状腺機能に影響を与えることがあります。特にバセドウ病は、強いストレスをきっかけに発症することもあります。
適度な運動や趣味の時間を持つなど、ストレスを溜めない生活習慣を心がけましょう。
定期的な健康診断
甲状腺の異常は、初期段階では自覚症状が乏しいことも多いです。定期的な健康診断で血液検査を受けることで、早期発見につながります。
特に家族に甲状腺疾患の方がいる場合は、甲状腺機能のチェックを含む健康診断を受けることをお勧めします。
首の観察習慣
入浴時や洗顔時など、鏡を見る機会に首の状態もチェックする習慣をつけましょう。甲状腺の腫れやしこりに早く気づくことができます。
甲状腺の病気は早期発見・早期治療が大切です。気になる症状があれば、自己判断せずに専門医に相談しましょう。
まとめ:甲状腺の異常は早期発見が鍵
甲状腺の異常は、初期症状が他の病気と似ていることも多く、見過ごされがちです。しかし、適切な治療を早期に開始することで、多くの場合は症状をコントロールし、健康的な生活を送ることができます。
今回ご紹介した10のチェック法を参考に、ご自身の体調の変化に敏感になり、気になる症状があれば専門医に相談することをお勧めします。
特に、首の腫れや違和感、急激な体重変化、極度の疲労感などの症状がある場合は、早めの受診が重要です。
甲状腺の病気は、適切な治療と定期的な経過観察により、多くの方が通常の生活を送ることができます。自己判断せず、専門医の診断を受けることが大切です。
甲状腺疾患の専門的な診療をご希望の方は、当院「いんざい糖尿病・甲状腺クリニック」にお気軽にご相談ください。糖尿病専門医・内分泌代謝科専門医が在籍し、最新の知見に基づいた診療を提供しています。
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【著者情報】
院長 髙橋 紘(たかはし ひろ)

いんざい糖尿病・甲状腺クリニック 院長。
日出学園小学校、攻玉社高等学校を経て、埼玉医科大学医学部医学科を卒業。東京慈恵会医科大学大学院医学系研究科を修了し、医学博士を取得。
2010年より東京慈恵会医科大学附属病院にて初期研修を開始し、その後、糖尿病・代謝・内分泌内科を専門に臨床・教育・研究に従事。富士市立中央病院や東京慈恵会医科大学附属第三病院での勤務を経て、2023年からは同附属病院糖尿病・代謝・内分泌内科にて外来医長を務める。2024年6月、千葉県印西市に「いんざい糖尿病・甲状腺クリニック」を開院。
また、東京慈恵会慈恵看護専門学校や日本看護協会看護研修学校で非常勤講師として教育にも携わる。
資格・所属学会
医学博士
日本内科学会 総合内科専門医
日本糖尿病学会 糖尿病専門医・指導医
日本内分泌学会 内分泌代謝科専門医・指導医
日本肥満学会 肥満症専門医
難病指定医
小児慢性特定疾患指定医
