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甲状腺症状は更年期障害と間違えやすい|正しい見分け方

[2025.10.17]

「最近疲れやすい」「イライラする」「動悸がする」「体重が変化した」…こんな症状を感じたとき、あなたはどう考えますか?

更年期障害かな?と思って放置していたり、市販薬で対処していたりする方も多いでしょう。しかし、これらの症状は甲状腺の病気によるものかもしれません。

実は、甲状腺疾患と更年期障害は症状がとても似ているため、見分けるのが難しいのです。東京女子医科大学の女性専門外来の調査では、更年期障害と診断されていた女性の15%に甲状腺機能異常が認められたという報告もあります。

甲状腺と更年期障害の基本を理解しよう

まずは甲状腺と更年期障害について基本的な知識を確認しておきましょう。

甲状腺は首の前面、のどぼとけのすぐ下にある蝶が羽を広げたような形の臓器です。重さはわずか15〜20グラム程度の小さな臓器ですが、全身の代謝を調整する重要な役割を担っています。

甲状腺から分泌される甲状腺ホルモン(T3・T4)は、心拍数や体温の調節、エネルギー代謝のコントロールなど、体の様々な機能に関わっています。いわば体の「アクセル」の役割を果たしているのです。

一方、更年期障害は閉経前後の約10年間(45〜55歳頃)に、女性ホルモン(エストロゲン)の急激な減少によって起こる様々な心身の不調を指します。

更年期になると卵巣が衰え、エストロゲンの分泌が減少します。すると脳の視床下部がパニックを起こし、ホルモンバランスの乱れから自律神経の調節機能も乱れてしまうのです。

甲状腺疾患の主な種類と特徴

甲状腺疾患は大きく分けて2つのタイプがあります。

甲状腺機能亢進症:甲状腺ホルモンが過剰に分泌される状態です。バセドウ病が代表的で、女性に多く見られます。

甲状腺機能低下症:甲状腺ホルモンの分泌が不足する状態です。橋本病が代表的で、こちらも女性に圧倒的に多い疾患です。

甲状腺疾患は自己免疫性疾患に分類されるものが多く、女性ホルモンの影響が免疫系に作用して発症リスクを高めていると考えられています。そのため、女性に多く見られるのです。

甲状腺機能亢進症と更年期障害の似た症状

甲状腺機能亢進症と更年期障害は、多くの共通した症状があります。どちらも自律神経に影響を与えるため、似たような症状が現れるのです。

甲状腺機能亢進症の主な症状には、動悸、発汗過多、体重減少、疲労感、イライラ、不眠、手の震え、下痢などがあります。

更年期障害でも、ホットフラッシュ(ほてり・のぼせ)、動悸、発汗、イライラ、不眠、疲労感などの症状が見られます。

このように症状が重なるため、「更年期だから仕方ない」と思って病院を受診せず、甲状腺疾患を見逃してしまうケースが少なくないのです。

見分けるポイント:甲状腺機能亢進症の特徴的な症状

甲状腺機能亢進症に特徴的な症状としては、以下のようなものがあります。

  • 食欲があるのに体重が減少する:代謝が過剰に亢進するため、食べても痩せていきます
  • 手の震え(振戦):細かい震えが特徴的です
  • 目の症状:まぶたの腫れや眼球突出が見られることがあります
  • 安静時でも頻脈:脈拍が100回/分以上になることも

特に「食べているのに痩せる」という症状は、更年期障害ではあまり見られないため、この症状がある場合は甲状腺機能亢進症を疑ってみる必要があります。

また、甲状腺機能亢進症の場合、首の前面を触ると甲状腺の腫れを感じることがあります。自分でチェックしてみましょう。

甲状腺機能低下症と更年期障害の似た症状

甲状腺機能低下症も更年期障害と似た症状を示します。こちらは甲状腺ホルモンが不足するため、体の機能が全体的に低下した状態になります。

甲状腺機能低下症の主な症状には、疲労感、寒がり、むくみ、便秘、記憶力低下、抑うつ、皮膚の乾燥、脱毛、体重増加などがあります。

更年期障害でも、疲労感、抑うつ、記憶力低下、不安感などの症状が現れます。

見分けるポイント:甲状腺機能低下症の特徴的な症状

甲状腺機能低下症に特徴的な症状としては、以下のようなものがあります。

  • 食欲がないのに体重が増加する:代謝が低下するため、少量の食事でも太りやすくなります
  • むくみ:特に顔や手足のむくみが目立ちます
  • 声のかすれ:甲状腺の腫れによって声に影響が出ることがあります
  • 徐脈:脈拍が遅くなります
  • 重度の便秘:腸の動きが鈍くなるため、頑固な便秘になりがちです

更年期障害でも体重増加は見られますが、甲状腺機能低下症の場合は代謝低下による体重増加が特徴的です。また、顔のむくみが目立つことも特徴です。

甲状腺機能低下症も首の前面を触ると甲状腺の腫れを感じることがあります。

甲状腺疾患と更年期障害を見分ける検査

症状だけでは甲状腺疾患と更年期障害を見分けるのは難しいため、適切な検査を受けることが重要です。

甲状腺疾患の検査では、主に血液検査で甲状腺ホルモン値を測定します。

  • TSH(甲状腺刺激ホルモン):脳の下垂体から分泌されるホルモンで、甲状腺機能の状態を反映します
  • FT4(遊離サイロキシン):甲状腺から分泌される主要なホルモンです
  • FT3(遊離トリヨードサイロニン):もう一つの甲状腺ホルモンです
  • 抗TPO抗体、抗サイログロブリン抗体:自己免疫性甲状腺疾患の診断に役立ちます
  • TRAb(TSH受容体抗体):バセドウ病の診断に重要です

また、超音波検査(エコー)で甲状腺の大きさや形状、腫瘍の有無を確認することもあります。

一方、更年期障害の検査では、女性ホルモン関連の血液検査を行います。

  • エストラジオール(E2):主要な女性ホルモンの一つです
  • FSH(卵胞刺激ホルモン):閉経前後で上昇します
  • LH(黄体形成ホルモン):閉経前後で上昇します

これらの検査結果と症状を総合的に判断して、甲状腺疾患か更年期障害かを診断します。

どうですか?あなたの症状、もしかしたら甲状腺疾患かもしれませんね。

甲状腺疾患の治療法

甲状腺疾患と診断された場合、どのような治療が行われるのでしょうか。

甲状腺機能亢進症(バセドウ病)の治療

バセドウ病の治療には主に3つの方法があります。

  • 抗甲状腺薬:甲状腺ホルモンの合成を抑える薬です。メルカゾール(MMI)やプロパジール(PTU)などが使用されます
  • 放射性ヨウ素療法:放射性ヨウ素を内服し、甲状腺の機能を低下させる治療法です
  • 手術療法:甲状腺の一部または全部を外科的に切除します

症状を緩和するために、β遮断薬(プロプラノロールなど)を併用することもあります。これは動悸や手の震えなどの症状を和らげる効果があります。

甲状腺機能低下症(橋本病)の治療

橋本病の治療は比較的シンプルです。

  • 甲状腺ホルモン補充療法:不足している甲状腺ホルモンを補うため、レボチロキシン(チラーヂンなど)を服用します

適切な量の甲状腺ホルモンを補充することで、症状は改善していきます。定期的に血液検査を行い、ホルモン量を調整していくことが重要です。

更年期障害の治療法

更年期障害の治療法について簡単に触れておきましょう。

  • ホルモン補充療法(HRT):減少したエストロゲンを補充する治療法です
  • 漢方薬:加味逍遥散、桂枝茯苓丸、当帰芍薬散などが用いられます
  • 対症療法:症状に応じて、抗不安薬、睡眠薬、抗うつ薬などを使用することもあります
  • 生活習慣の改善:適度な運動、バランスの良い食事、十分な睡眠、ストレス管理などが重要です

更年期障害の治療は、症状の程度や患者さんの希望に応じて個別に計画されます。

受診のタイミングと専門医の選び方

以下のような症状がある場合は、甲状腺疾患の可能性を考えて専門医を受診することをお勧めします。

  • 更年期と思われる症状が強く、日常生活に支障がある
  • 市販薬や漢方薬を試しても効果がない
  • 甲状腺機能亢進症や低下症に特徴的な症状がある
  • 首の前面に腫れや違和感がある
  • 家族に甲状腺疾患の方がいる

受診する際は、内分泌代謝内科や甲状腺専門クリニックを選ぶとよいでしょう。女性の場合は、女性専門外来や婦人科で相談するのも一つの方法です。

甲状腺疾患は適切な治療を受ければ、症状をコントロールしながら普通の生活を送ることができます。「更年期だから」と諦めずに、一度専門医に相談してみることをお勧めします。

まとめ:甲状腺疾患と更年期障害の見分け方

甲状腺疾患と更年期障害は症状が似ているため、見分けるのが難しいことがあります。しかし、以下のポイントに注意すると区別しやすくなります。

  • 甲状腺機能亢進症特有の症状:食欲があるのに体重減少、手の震え、眼の症状
  • 甲状腺機能低下症特有の症状:食欲がないのに体重増加、顔のむくみ、声のかすれ
  • 首の前面の腫れや違和感がある場合は甲状腺疾患の可能性が高い
  • 確定診断には血液検査が必要

症状に心当たりがある方は、ぜひ専門医に相談してください。適切な診断と治療で、快適な毎日を取り戻しましょう。

当院では甲状腺専門外来を設けており、甲状腺疾患の診断から治療まで一貫して行っています。甲状腺に関するお悩みがありましたら、お気軽にご相談ください。

詳しい情報や予約方法については、いんざい糖尿病・甲状腺クリニックのウェブサイトをご覧ください。

【著者情報】

院長 髙橋 紘(たかはし ひろ)

いんざい糖尿病・甲状腺クリニック 院長。
日出学園小学校、攻玉社高等学校を経て、埼玉医科大学医学部医学科を卒業。東京慈恵会医科大学大学院医学系研究科を修了し、医学博士を取得。

2010年より東京慈恵会医科大学附属病院にて初期研修を開始し、その後、糖尿病・代謝・内分泌内科を専門に臨床・教育・研究に従事。富士市立中央病院や東京慈恵会医科大学附属第三病院での勤務を経て、2023年からは同附属病院糖尿病・代謝・内分泌内科にて外来医長を務める。2024年6月、千葉県印西市に「いんざい糖尿病・甲状腺クリニック」を開院。

また、東京慈恵会慈恵看護専門学校や日本看護協会看護研修学校で非常勤講師として教育にも携わる。

資格・所属学会

医学博士

日本内科学会 総合内科専門医

日本糖尿病学会 糖尿病専門医・指導医

日本内分泌学会 内分泌代謝科専門医・指導医

日本肥満学会 肥満症専門医

難病指定医

小児慢性特定疾患指定医

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