肥満症の5つの治療法|専門医が教える効果的アプローチ
肥満症は単なる体重の問題ではなく、さまざまな健康障害を引き起こす病気です。近年、肥満症治療の選択肢は大きく広がっています。適切な治療法を選ぶことで、健康的な体重管理と合併症の予防が可能になります。
私は糖尿病専門医・肥満症専門医として多くの患者さんの治療に携わってきました。この記事では、肥満症の効果的な5つの治療アプローチについて詳しく解説します。
肥満症とは?正しく理解することが治療の第一歩
肥満症は単なる「太っている状態」ではありません。日本肥満学会の定義では、BMI(体格指数)が25以上で、さらに健康障害を伴う場合に「肥満症」と診断されます。
肥満症の診断には、次の2つの条件のいずれかを満たす必要があります。
- BMIが25以上で、11種類の健康障害(耐糖能障害、脂質異常症、高血圧など)のうち1つ以上がある
- BMIが25以上で、内臓脂肪の蓄積がある
また、BMIが35以上の場合は「高度肥満症」と定義されます。高度肥満症では、より積極的な治療介入が必要になることが多いです。
肥満症の問題は体重だけではありません。糖尿病、心血管疾患、肝疾患、睡眠時無呼吸症候群、精神疾患、悪性腫瘍など、多くの深刻な合併症を引き起こす可能性があります。
肥満症治療法①:科学的根拠に基づいた食事療法
肥満症治療の基本は食事療法です。単に食事量を減らすだけでなく、栄養バランスを考えた適切な食事内容が重要です。
私が患者さんに勧めているのは、急激な食事制限ではなく、無理のない範囲での食習慣の改善です。極端な食事制限は長続きせず、リバウンドの原因になることが多いからです。
効果的な食事療法のポイントは次の通りです:
- 総エネルギー摂取量を適正化する(標準体重×25~30kcal/日が目安)
- 炭水化物、脂質、たんぱく質のバランスを整える
- 食物繊維を積極的に摂取する
- 規則正しい食事時間を心がける
- ゆっくり噛んで食べる習慣をつける
当院では、管理栄養士による個別の栄養指導を行っています。患者さん一人ひとりのライフスタイルや嗜好に合わせた、継続可能な食事プランを提案しています。
あなたはどんな食事を心がけていますか?
肥満症治療法②:個別化された運動療法
運動療法は食事療法と並んで肥満症治療の基本です。適切な運動は、体重減少だけでなく、筋肉量の維持・増加、代謝の改善、心肺機能の向上など、多くの健康効果をもたらします。
しかし、いきなり激しい運動を始めると、膝や腰に負担がかかったり、挫折してしまったりする危険性があります。特に高度肥満症の方は、関節への負担が大きい運動は避けるべきです。
私が患者さんに推奨している運動療法の基本は以下の通りです:
- まずは1日10分程度の軽い運動から始める
- ウォーキングや水中歩行など、関節への負担が少ない有酸素運動を中心に
- 徐々に運動時間を延ばし、最終的には週150分以上の中等度の有酸素運動を目指す
- 筋力トレーニングも週2回程度取り入れる
- 日常生活での活動量を増やす工夫をする(エレベーターではなく階段を使うなど)
運動療法を成功させるコツは、「楽しく続けられる運動を見つけること」です。無理なく継続できる運動習慣を身につけることが、長期的な体重管理の鍵となります。
肥満症治療法③:行動療法で生活習慣を根本から改善
肥満症の多くは、長年かけて形成された生活習慣が原因の一つですです。食べ過ぎや運動不足といった行動パターンを変えるには、行動療法が効果的です。
行動療法とは、問題となる行動を分析し、より健康的な行動パターンに置き換えていく治療法です。自己観察と環境調整を通じて、食行動や運動習慣を改善していきます。
私が臨床で実践している行動療法の具体的なアプローチには、次のようなものがあります:
- 食事日記をつけて、食行動のパターンを把握する
- 食事の際の「きっかけ」を特定し、対処法を考える
- 小さな目標を設定し、達成感を味わう
- ストレス管理の方法を学ぶ
- 周囲の人々のサポートを得る
行動療法は即効性はありませんが、長期的な生活習慣の改善につながります。私の経験では、食事療法や運動療法と組み合わせることで、より持続的な効果が得られることが多いです。
ある40代の患者さんは、仕事のストレスから夜間に無意識に食べてしまう習慣がありました。食事日記をつけることで、このパターンに気づき、ストレス管理の方法を学ぶことで、夜間の過食が大幅に改善しました。
あなたの食習慣や運動習慣で、変えたいと思っているものはありますか?
肥満症治療法④:薬物療法の最新動向
肥満症の薬物療法は近年大きく進歩しています。食事療法や運動療法を行っても十分な効果が得られない場合、薬物療法が検討されます。
特に注目されているのが、GLP-1受容体作動薬やGIP/GLP-1受容体作動薬です。これらは元々糖尿病治療薬として開発されましたが、強力な体重減少効果があることが分かり、肥満症治療薬としても承認されています。
2023年11月に「ウゴービ」(一般名:セマグルチド)が、2025年3月には「ゼップバウンド」(一般名:チルゼパチド)が肥満症治療薬として日本で承認されました。
- ウゴービ(セマグルチド):GLP-1受容体作動薬で、約1年で体重の10~15%の減少が期待できる
- ゼップバウンド(チルゼパチド):GIP/GLP-1受容体作動薬で、約1年で体重の15~20%の減少が期待できる
これらの薬剤は週1回の皮下注射で使用します。食欲を抑制し、満腹感を高める効果があります。ただし、保険適用には条件があり、すべての肥満の方が使用できるわけではありません。
肥満症治療薬の保険適用条件は以下の通りです:
- 肥満症(高血圧、脂質異常症または2型糖尿病のいずれかを有する)と診断されている
- 食事・運動療法を行っても十分な効果が得られない
- BMIが35以上、またはBMIが27以上で2つ以上の肥満関連健康障害を有する
薬物療法は魔法の杖ではありません。食事療法や運動療法と併用することで、より効果的な治療となります。また、薬剤によっては吐き気や下痢などの副作用が出ることもあるため、医師の指導のもとで使用することが重要です。
肥満症治療法⑤:高度肥満症に対する外科治療
BMIが35以上の高度肥満症で、内科的治療で十分な効果が得られない場合、外科的治療(減量・代謝改善手術)が選択肢となります。
日本で行われている主な肥満症の外科治療には、以下のようなものがあります:
- スリーブ状胃切除術:胃の大部分を切除して小さくする手術
- 胃バイパス術:胃の一部と小腸の一部をバイパスする手術
これらの手術は、単に食事量を物理的に制限するだけでなく、消化管ホルモンの分泌パターンを変化させることで、食欲の抑制や代謝の改善をもたらします。
外科治療の効果は非常に大きく、体重の30~40%の減少が期待できます。また、糖尿病や高血圧などの合併症が改善・寛解することも多いです。
しかし、手術には合併症のリスクもあります。また、手術後も生涯にわたる食生活の管理が必要です。そのため、手術の適応は慎重に判断され、術前・術後の包括的なサポート体制が整った専門施設で行われることが重要です。
当院では、高度肥満症の患者さんに対して、適切な外科治療施設への紹介を行っています。手術を検討する際には、メリット・デメリットを十分に理解した上で、患者さんと医療チームが共同で意思決定を行うことが大切です。
肥満症治療成功のためのポイント
肥満症治療を成功させるためには、いくつかの重要なポイントがあります。長年の臨床経験から、私が特に重視しているのは以下の点です。
1. 個別化されたアプローチ
肥満症の原因や合併症は人それぞれ異なります。当院では「100人100通り」のオーダーメイド治療を心がけています。年齢、性別、生活環境、合併症などを考慮した個別の治療計画が重要です。
2. 多職種によるチーム医療
肥満症治療は、医師だけでなく、看護師、管理栄養士など多職種の連携が欠かせません。当院では管理栄養士が常勤で糖尿病特定認定看護師も在籍し、チームで患者さんをサポートしています。
3. 現実的な目標設定
短期間での劇的な体重減少を目指すのではなく、まずは体重の5~10%の減量を目標にします。この程度の減量でも、健康状態は大きく改善することが研究で示されています。
4. 長期的な視点
肥満症治療は短期間で完結するものではありません。生活習慣の永続的な改善と、リバウンド防止のための長期的なフォローアップが重要です。
5. 心理的サポート
肥満に対する社会的偏見(スティグマ)は、患者さんの心理的負担になります。治療においては、体重だけでなく、QOL(生活の質)の向上も重要な目標です。
肥満症治療は一人で行うものではありません。専門医や医療スタッフのサポートを受けながら、無理のないペースで進めていくことが大切です。
肥満症治療の最大の成功要因は、患者さん自身が「自分の健康のために変わりたい」という内発的な動機を持つことです。
まとめ:肥満症治療は専門医によるトータルケアが重要
肥満症治療には、食事療法、運動療法、行動療法、薬物療法、外科治療という5つの主要なアプローチがあります。これらを患者さんの状態に合わせて適切に組み合わせることが、治療成功の鍵となります。
肥満症は単なる体重の問題ではなく、さまざまな健康障害を引き起こす疾患です。適切な治療によって、体重減少だけでなく、糖尿病や高血圧などの合併症の改善・予防も期待できます。
当院では、糖尿病専門医・肥満症専門医・内分泌代謝科専門医が在籍し、最新の肥満症治療を提供しています。また、糖尿病特定認定看護師や管理栄養士も在籍し、チーム医療で患者さんをサポートしています。
肥満症でお悩みの方は、ぜひ専門医にご相談ください。あなたに合った治療法を一緒に考え、健康的な体重管理をサポートします。
肥満症治療に関する詳細やご相談は、いんざい糖尿病・甲状腺クリニックまでお気軽にお問い合わせください。
院長 髙橋 紘
【著者情報】
院長 髙橋 紘(たかはし ひろ)

いんざい糖尿病・甲状腺クリニック 院長。
日出学園小学校、攻玉社高等学校を経て、埼玉医科大学医学部医学科を卒業。東京慈恵会医科大学大学院医学系研究科を修了し、医学博士を取得。
2010年より東京慈恵会医科大学附属病院にて初期研修を開始し、その後、糖尿病・代謝・内分泌内科を専門に臨床・教育・研究に従事。富士市立中央病院や東京慈恵会医科大学附属第三病院での勤務を経て、2023年からは同附属病院糖尿病・代謝・内分泌内科にて外来医長を務める。2024年6月、千葉県印西市に「いんざい糖尿病・甲状腺クリニック」を開院。
また、東京慈恵会慈恵看護専門学校や日本看護協会看護研修学校で非常勤講師として教育にも携わる。
資格・所属学会
医学博士
日本内科学会 総合内科専門医
日本糖尿病学会 糖尿病専門医・指導医
日本内分泌学会 内分泌代謝科専門医・指導医
日本肥満学会 肥満症専門医
難病指定医
小児慢性特定疾患指定医
