肥満症セルフチェック10項目|専門医が教える正しい診断法
肥満症とは?単なる肥満との違いを理解しよう
「体重が増えた」「お腹の脂肪が気になる」など、体型の変化を感じている方は多いのではないでしょうか。しかし、単に太っている「肥満」と、医学的な治療が必要な「肥満症」は明確に区別する必要があります。
肥満症とは、肥満によって健康に悪影響を及ぼす、または治療が必要な状態のことを指します。単なる見た目の問題ではなく、様々な病気を合併しやすくなる深刻な健康問題なのです。
日本肥満学会の定義によると、肥満はBMI(体格指数)が25以上の状態を指します。一方、肥満症は肥満(BMI25以上)に加えて、肥満に起因する健康障害が1つ以上ある、または内臓脂肪の蓄積がある場合に診断されます。
肥満症の診断には、次の2つの条件のいずれか、または両方を満たす必要があります。
- 肥満(BMI≧25)であり、肥満に起因ないし関連する健康障害を有する
- 肥満(BMI≧25)であり、内臓脂肪蓄積を有する(腹囲:男性≧85cm、女性≧90cm)
つまり、単に体重が重いだけでなく、その体重によって健康上の問題が生じている、または生じるリスクが高い状態が肥満症なのです。
肥満症セルフチェック10項目|あなたは大丈夫?
肥満症かどうか気になる方のために、簡単にセルフチェックできる10項目をご紹介します。該当する項目が多いほど、肥満症の可能性が高くなります。
以下の項目について、当てはまるものをチェックしてみてください。肥満症の早期発見と適切な治療につながります。
【身体測定に関する項目】
- BMIが25以上である
- BMI=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)で計算できます。例えば身長170cmで体重80kgの場合、BMI=80÷1.7÷1.7=27.7となります。
- 腹囲が基準値を超えている
- 男性は85cm以上、女性は90cm以上が内臓脂肪蓄積の目安です。へそ周りを測定してください。
- この1年で体重が3kg以上増加した
- 急激な体重増加は肥満症のリスク因子となります。
【自覚症状に関する項目】
- 階段の昇降や少し歩くだけで息切れがする
- 体重増加による心肺機能への負担が原因かもしれません。
- いびきがひどく、時々呼吸が止まることがある
- 睡眠時無呼吸症候群の可能性があります。肥満症の重要な合併症の一つです。
- 膝や腰に痛みがある
- 過剰な体重が関節に負担をかけ、変形性膝関節症などの原因になります。
- 疲れやすく、日中も強い眠気に襲われることがある
- 睡眠の質の低下や代謝異常が関係している可能性があります。
【検査値や既往歴に関する項目】
- 血圧が高い(130/85mmHg以上)
- 肥満、特に内臓脂肪型肥満は高血圧のリスクを高めます。
- 血糖値が高い(空腹時血糖110mg/dL以上)
- 肥満は2型糖尿病の最大のリスク因子です。
- 脂質異常症がある(中性脂肪150mg/dL以上、HDLコレステロール40mg/dL未満など)
- 肥満に伴う代謝異常により、脂質プロファイルが悪化することがあります。
これらの項目のうち、まず1と2は肥満の基本条件です。これに加えて他の項目に該当する場合は、肥満症の可能性が高くなります。特に8〜10の項目は、メタボリックシンドロームの診断基準にも関わる重要な指標です。
いかがでしょうか?3つ以上当てはまる場合は、肥満症の可能性があります。専門医への相談をお勧めします。
肥満症の健康リスクと合併症
肥満症は単なる体重の問題ではなく、様々な健康障害を引き起こす可能性があります。日本肥満学会の「肥満症診療ガイドライン2022」では、肥満症の診断に必要な11の健康障害が定義されています。
これらの合併症は、適切な減量によって予防・改善できることが特徴です。肥満症の早期発見・治療が重要な理由はここにあります。
【肥満症の主な合併症】
- 2型糖尿病・耐糖能異常
- 肥満、特に内臓脂肪型肥満は、インスリン抵抗性を引き起こし、糖尿病のリスクを高めます。
- 脂質異常症
- 中性脂肪の上昇やHDLコレステロール(善玉コレステロール)の低下が起こりやすくなります。
- 高血圧
- 体重増加に伴い血圧が上昇することが知られています。
- 高尿酸血症・痛風
- 肥満に伴い尿酸値が上昇し、痛風発作のリスクが高まります。
- 冠動脈疾患
- 肥満は心筋梗塞などの冠動脈疾患のリスクを増加させます。
- 脳梗塞
- 肥満は脳血管疾患のリスク因子です。
- 非アルコール性脂肪性肝疾患
- 肝臓に脂肪が蓄積し、炎症や線維化を引き起こすことがあります。
- 月経異常・不妊など
- 女性では排卵障害や不妊のリスクが高まります。
- 睡眠時無呼吸症候群・肥満低換気症候群
- 上気道の狭窄や呼吸筋への脂肪沈着により、睡眠中の呼吸障害が起こります。
- 変形性膝関節症
- 過剰な体重が関節に負担をかけ、軟骨の摩耗を促進します。
- 肥満関連腎臓病
- 肥満は腎機能障害のリスクを高めます。
これらの合併症は相互に関連しており、一つの問題が他の問題を悪化させる悪循環を生み出すことがあります。例えば、肥満による睡眠時無呼吸症候群は睡眠の質を低下させ、それがさらなる体重増加につながるといった具合です。
肥満症の治療によって3〜5%の減量に成功するだけでも、これらの健康障害の多くが改善することが研究で示されています。健康のためには、標準体重を目指すよりも、まずは現在の体重から3〜5%の減量を達成することが現実的な目標となります。
肥満症の原因と現代社会の影響
肥満症の発症には、個人の食習慣や運動不足だけでなく、現代社会の環境要因や遺伝的要素も大きく関わっています。肥満を単に「自己責任」と捉えるのではなく、多角的な視点で理解することが重要です。
肥満症の原因は複雑で、様々な要因が絡み合っています。主な原因を見ていきましょう。
【社会環境の変化】
現代社会では、以下のような環境変化が肥満の増加に関連しています。
- 交通網や車社会の発展
- 日常的な身体活動量の減少につながっています。
- 食品加工保存技術の発達
- 高カロリー食品が手軽に入手できるようになりました。
- コンビニエンスストアや飲食店の増加
- 24時間いつでも食事ができる環境が整っています。
- デジタル社会の進展
- スマートフォンやパソコンの普及により、座位時間が増加しています。
これらの社会環境の変化は個人の努力だけでは対応が難しく、肥満の増加に大きく寄与しています。
【個人の生活習慣】
個人レベルでは、以下の生活習慣が肥満症のリスクを高めます。
- 食生活の乱れ
- 高カロリー・高脂肪食の摂取、食べる速度が速い、夜遅い時間の食事など。
- 運動不足
- 日常的な身体活動量の減少、座位時間の増加。
- 睡眠不足
- 睡眠時間の短縮は食欲を調節するホルモンのバランスを崩します。
- ストレス
- 精神的ストレスによる過食や、ストレス解消のための飲酒・間食の増加。
【遺伝的要因】
肥満の発症には生まれ持った遺伝子も関係しています。消化・吸収・代謝などに関わるホルモンの分泌量や腸内環境には個人差があり、同じ食事・運動でも体重の変化に差が出ることがあります。
このように、肥満症は単に「食べ過ぎ」や「運動不足」という個人の問題ではなく、社会環境や遺伝的要因も大きく関わる複雑な疾患です。肥満症の治療においては、これらの多角的な要因を考慮したアプローチが必要となります。
肥満症の原因を理解することで、自分自身を責めるのではなく、現実的な対策を立てることができます。次のセクションでは、肥満症の適切な治療法について解説します。
肥満症の適切な治療法
肥満症の治療目的は、体重を大きく減らすことではなく、「肥満に起因・関連する健康障害の予防・改善」にあります。日本肥満学会の「肥満症診療ガイドライン2022」に基づいた治療法をご紹介します。
肥満症と診断された場合、まずは現実的な減量目標を設定します。一般的な肥満症では現体重の3%以上、高度肥満症(BMI35以上)では現体重の5〜10%の減量を目指します。
【治療の基本:ライフスタイル改善】
肥満症治療の基本は、食事・運動・行動療法を組み合わせたライフスタイル改善療法です。
- 食事療法
- 極端な食事制限ではなく、バランスの良い食事を心がけます。一般的には、現在の摂取カロリーから300〜500kcal程度減らすことを目標とします。管理栄養士による個別の栄養指導が効果的です。
- 運動療法
- 有酸素運動(ウォーキング、水泳など)と筋力トレーニングを組み合わせるのが理想的です。いきなり激しい運動を始めるのではなく、日常生活での活動量を増やすことから始めましょう。
- 行動療法
- 食事や運動の記録をつける、食べる速度を遅くする、小さな皿を使うなど、行動パターンを変えることで減量をサポートします。
これらの非薬物療法を3〜6ヶ月実施し、1ヶ月あたり0.5〜1kg程度の減量を目指しましょう。
【薬物療法】
非薬物療法で十分な効果が得られない場合や、合併症の重篤度から急速な減量が必要な場合には、薬物療法が検討されます。
近年、肥満症治療薬として承認された薬剤には以下のようなものがあります:
- GLP-1受容体作動薬(セマグルチド:商品名ウゴービ)
- 食欲を抑制し、満腹感を高める効果があります。週1回の皮下注射で使用します。
- GLP-1/GIP両受容体作動薬(チルゼパチド:商品名ゼップバウンド)
- GLP-1とGIPの両方の受容体に作用し、食欲抑制と代謝改善効果があります。
これらの薬剤は保険適用となりますが、使用には一定の条件があります。「高度肥満症」や「肥満症で高血圧、脂質異常症または2型糖尿病のいずれかを有し、BMI≧27kg/m²以上かつ2つ以上の肥満に関連する健康障害を有する」などの基準を満たす必要があります。
【外科治療】
高度肥満症(BMI35以上)で内科的治療で十分な効果が得られない場合には、減量・代謝改善手術(バリアトリック手術)が選択肢となります。代表的な術式には、胃の容量を小さくする「スリーブ状胃切除術」や、胃と小腸の一部をバイパスする「胃バイパス術」などがあります。
肥満症の治療は、一人ひとりの状態や生活背景に合わせたオーダーメイドの治療計画が重要です。専門医、看護師、管理栄養士などによるチーム医療で取り組むことで、効果的な治療が可能になります。
肥満症専門医への相談のタイミングと準備
肥満症のセルフチェックで複数の項目に該当した場合や、自己流のダイエットでリバウンドを繰り返している場合は、専門医への相談をお勧めします。適切な診断と治療計画により、健康的な減量が可能になります。
肥満症専門医とは、日本肥満学会が認定する「肥満症専門医」の資格を持つ医師です。日本には約150人程度しかいない貴重な専門家です。
【専門医に相談すべきタイミング】
- BMIが25以上で健康障害がある
- 高血圧、脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病を合併している場合。
- 自己流のダイエットでリバウンドを繰り返している
- 無理な食事制限や過度な運動で一時的に減量しても、すぐに元に戻ってしまう場合。
- 睡眠時無呼吸症候群の症状がある
- いびきがひどい、睡眠中に呼吸が止まる、日中の強い眠気がある場合。
- 肥満症治療薬の使用を検討したい
- GLP-1受容体作動薬などの肥満症治療薬は施設基準に該当した施設で専門医の処方が必要です。
- 高度肥満(BMI35以上)である
- 高度肥満症は合併症のリスクが高く、専門的な治療が必要です。
【専門医受診前の準備】
専門医を受診する際は、以下の準備をしておくと診察がスムーズに進みます。
- 体重の変化の記録
- いつ頃から体重が増加したか、これまでの最大・最小体重など。
- 過去の健康診断結果
- 血液検査、血圧、腹囲などのデータがあれば持参しましょう。
- 現在服用中の薬
- お薬手帳や薬の名前のリストを用意しましょう。
- これまでの減量の取り組み
- 過去に試したダイエット法とその結果について整理しておきましょう。
- 食事・運動の記録
- 可能であれば、1週間程度の食事内容と運動の記録をつけておくと良いでしょう。
肥満症の治療は、短期間で劇的な体重減少を目指すものではありません。健康状態の改善を第一の目標とし、無理のないペースで継続的に取り組むことが重要です。専門医のサポートを受けながら、長期的な視点で健康的な生活習慣を身につけていきましょう。
当院(いんざい糖尿病・甲状腺クリニック)では、肥満症専門医による「安心・安全・無理のない」減量法を提案しています。日本糖尿病学会認定教育施設のため保険での肥満症治療薬(GLP-1製剤:ウゴービ、GIP/GLP-1製剤:ゼップバウンド)による治療も可能です。お気軽にご相談ください。
まとめ:肥満症セルフチェックと専門医による適切な治療の重要性
肥満症は単なる体重の問題ではなく、様々な健康障害を引き起こす疾患です。本記事でご紹介した10項目のセルフチェックを活用して、ご自身の状態を確認してみてください。
肥満症の診断には、BMI25以上であることに加えて、肥満に関連する健康障害の存在や内臓脂肪の蓄積が重要な指標となります。肥満症と診断された場合は、適切な治療により健康障害の予防・改善が期待できます。
肥満症の治療は、食事療法・運動療法・行動療法を基本としたライフスタイル改善が中心です。必要に応じて薬物療法や外科治療も選択肢となります。重要なのは、一人ひとりの状態に合わせたオーダーメイドの治療計画です。
肥満症の原因は複雑で、個人の生活習慣だけでなく、社会環境や遺伝的要因も関わっています。肥満を単に「自己責任」と捉えるのではなく、多角的な視点で理解し、適切な対策を立てることが大切です。
肥満症のセルフチェックで複数の項目に該当した場合や、自己流のダイエットでリバウンドを繰り返している場合は、専門医への相談をお勧めします。肥満症専門医による適切な診断と治療計画により、健康的な減量が可能になります。
当院(いんざい糖尿病・甲状腺クリニック)では、肥満症専門医が在籍し、一人ひとりに合わせた「安心・安全・無理のない」減量法を提案しています。管理栄養士による栄養・運動指導も行っており、チーム医療で患者さんの健康をサポートしています。
肥満症でお悩みの方は、ぜひ専門医にご相談ください。健康的な生活を取り戻すための第一歩を踏み出しましょう。
いんざい糖尿病・甲状腺クリニックでは、肥満症の診断から治療まで一貫したサポートを提供しています。お気軽にご相談ください。
【著者情報】
院長 髙橋 紘(たかはし ひろ)

いんざい糖尿病・甲状腺クリニック 院長。
日出学園小学校、攻玉社高等学校を経て、埼玉医科大学医学部医学科を卒業。東京慈恵会医科大学大学院医学系研究科を修了し、医学博士を取得。
2010年より東京慈恵会医科大学附属病院にて初期研修を開始し、その後、糖尿病・代謝・内分泌内科を専門に臨床・教育・研究に従事。富士市立中央病院や東京慈恵会医科大学附属第三病院での勤務を経て、2023年からは同附属病院糖尿病・代謝・内分泌内科にて外来医長を務める。2024年6月、千葉県印西市に「いんざい糖尿病・甲状腺クリニック」を開院。
また、東京慈恵会慈恵看護専門学校や日本看護協会看護研修学校で非常勤講師として教育にも携わる。
資格・所属学会
医学博士
日本内科学会 総合内科専門医
日本糖尿病学会 糖尿病専門医・指導医
日本内分泌学会 内分泌代謝科専門医・指導医
日本肥満学会 肥満症専門医
難病指定医
小児慢性特定疾患指定医
