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糖尿病の原因と予防法|専門医が解説する発症メカニズム

[2025.10.20]

糖尿病は現代社会において急増している生活習慣病の一つです。日本における糖尿病患者数は年々増加傾向にあり、多くの方が糖尿病の予防や管理に関心を持っています。糖尿病は一度発症すると完全に治すことが難しい病気ですが、早期発見と適切な管理によって合併症を予防することができます。

この記事では、糖尿病専門医として長年診療に携わってきた経験をもとに、糖尿病の原因や発症メカニズム、そして効果的な予防法について詳しく解説します。糖尿病について正しく理解し、健康的な生活を送るための参考にしていただければ幸いです。

糖尿病とは?基本的なメカニズムを理解する

糖尿病は、体内でインスリンの作用が十分に働かないことによって起こる病気です。インスリンは膵臓から分泌されるホルモンで、血液中のブドウ糖を細胞内に取り込む働きをしています。

健康な人の体では、食事によって血糖値が上昇すると、膵臓からインスリンが分泌され、血液中のブドウ糖が筋肉や肝臓などの細胞内に取り込まれます。これによって血糖値は正常範囲内に保たれるのです。

しかし糖尿病では、インスリンの分泌量が不足している、あるいはインスリンの働きが悪いために、血液中のブドウ糖が細胞内に十分取り込まれません。その結果、血液中にブドウ糖が溜まり、血糖値が高い状態が続きます。

長期間にわたって高血糖状態が続くと、全身の血管や神経に障害が起こり、様々な合併症を引き起こします。糖尿病の怖さは、この合併症にあると言っても過言ではありません。

糖尿病の主な種類と特徴

糖尿病は大きく分けて「1型糖尿病」と「2型糖尿病」の2つのタイプがあります。それぞれ発症の原因や特徴が異なりますので、詳しく見ていきましょう。

1型糖尿病の特徴

1型糖尿病は、膵臓のβ細胞が破壊されることでインスリンがほとんど分泌されなくなる病気です。主に自己免疫疾患が原因とされており、遺伝的要因や環境因子が関与していると考えられています。

1型糖尿病の特徴として、若年期に発症することが多く、急激な症状の進行が見られます。極度の喉の渇き、頻尿、体重減少などの症状が現れ、治療としては生涯にわたるインスリン注射が必要となります。

2型糖尿病の特徴

2型糖尿病は、インスリンの分泌低下とインスリン抵抗性(インスリンの効きが悪くなる状態)の両方が原因で起こります。日本人の糖尿病患者の約95%がこの2型糖尿病です。

2型糖尿病は中年以降に多く見られますが、最近では生活習慣の変化により若年層での発症も増加しています。肥満、運動不足、不規則な食生活などの生活習慣が大きく関与しており、遺伝的要因も影響します。

2型糖尿病の初期には自覚症状がほとんどないことが多く、健康診断で初めて発見されるケースも少なくありません。治療法としては、食事療法や運動療法が基本となり、必要に応じて薬物療法も行います。

糖尿病の主な原因と危険因子

糖尿病、特に2型糖尿病の発症には様々な要因が関わっています。主な原因と危険因子について詳しく見ていきましょう。

遺伝的要因

糖尿病には遺伝的な要素が大きく関わっています。親や兄弟に糖尿病患者がいる場合、発症リスクが高まることが知られています。特に日本人を含むアジア人は、欧米人に比べて少ない肥満度でも糖尿病を発症しやすいという人種的特徴があります。

最新の研究では、多民族集団における2型糖尿病のゲノム解析により、日本人特有の遺伝的リスク因子も明らかになってきています。遺伝的要因は変えることはできませんが、生活習慣を改善することで発症リスクを下げることは可能です。

生活習慣要因

生活習慣は糖尿病の発症に大きく影響します。特に以下の要因が重要です:

  • 食生活の乱れ:高カロリー・高脂肪・高糖質の食事、食べ過ぎ
  • 運動不足:身体活動量の低下によるエネルギー消費の減少
  • 肥満:特に内臓脂肪型肥満はインスリン抵抗性を高める
  • ストレス:ストレスホルモンが血糖値を上昇させる
  • 睡眠不足:慢性的な睡眠不足はインスリン抵抗性を高める

特に注目すべきは「血糖値スパイク」と呼ばれる現象です。食後に血糖値が急激に上昇し、その後急降下する状態を指し、動脈硬化のリスクを高めることが知られています。糖質の多い食品を一度に大量に摂取することで起こりやすくなります。

環境要因と加齢

環境要因も糖尿病の発症に影響します。都市化による身体活動の減少、ファストフードなどの高カロリー食品の普及、ストレスの多い社会環境などが挙げられます。

また、加齢に伴いインスリンの分泌能力が低下し、筋肉量が減少することでインスリン抵抗性が高まります。高齢化社会の進展とともに、糖尿病患者数が増加している背景には、このような加齢の影響もあるのです。

糖尿病の発症メカニズム

糖尿病がどのようにして発症するのか、そのメカニズムについて詳しく見ていきましょう。

インスリン分泌不全のメカニズム

膵臓のβ細胞からのインスリン分泌が低下すると、血糖値をコントロールする能力が失われます。1型糖尿病では自己免疫反応によってβ細胞が破壊されますが、2型糖尿病でも長期間の高血糖状態や過度の脂肪摂取によってβ細胞の機能が徐々に低下します。

最新の研究では、β細胞の疲弊や酸化ストレス、小胞体ストレスなどが細胞機能低下の原因として注目されています。また、膵島細胞の可塑性(環境に応じて変化する能力)についても研究が進んでおり、将来的な治療法開発に期待が寄せられています。

インスリン抵抗性のメカニズム

インスリン抵抗性とは、インスリンの作用が十分に発揮されない状態を指します。主に筋肉、肝臓、脂肪組織でインスリンの効きが悪くなることで、血糖値が上昇します。

インスリン抵抗性の主な原因は内臓脂肪の蓄積です。内臓脂肪からは様々な生理活性物質(アディポサイトカイン)が分泌され、インスリンの作用を妨げます。また、脂肪組織の慢性炎症や脂肪毒性(リポトキシシティ)も重要な因子です。

さらに、腸内細菌叢の変化も糖尿病の発症に関与していることが最近の研究で明らかになってきました。腸内細菌のバランスが崩れると、インスリン抵抗性が高まる可能性があります。

糖尿病の予防法:生活習慣の改善

糖尿病、特に2型糖尿病は生活習慣の改善によって予防できる可能性が高い疾患です。効果的な予防法について詳しく見ていきましょう。

食事療法:バランスの取れた食事

糖尿病予防の基本は、バランスの取れた食事です。具体的には以下のポイントを意識しましょう:

  • 適正なエネルギー摂取:自分に必要なカロリーを知り、過剰摂取を避ける
  • 炭水化物の質と量に注意:精製された炭水化物よりも玄米や全粒粉などの食物繊維を多く含む食品を選ぶ
  • 食物繊維を積極的に摂取:野菜、海藻、きのこ類などを多く取り入れる
  • 良質なタンパク質の摂取:魚、大豆製品、鶏肉などを適量摂取する
  • 健康的な脂質を選ぶ:オリーブオイル、アボカド、ナッツ類などに含まれる不飽和脂肪酸を摂る

最近の研究では、食事のタイミングも重要であることがわかってきました。夜遅い時間の食事は血糖コントロールに悪影響を与える可能性があります。また、食後の血糖値の急上昇(血糖値スパイク)を防ぐために、食物繊維を先に摂るなどの工夫も効果的です。

運動療法:定期的な身体活動

運動は血糖値を下げ、インスリン感受性を高める効果があります。糖尿病予防のための運動について、以下のポイントを押さえておきましょう:

  • 有酸素運動:ウォーキング、水泳、サイクリングなどを週に150分以上
  • 筋力トレーニング:週に2回以上、主要な筋肉群を鍛える
  • 日常生活での活動量増加:階段の使用、徒歩での移動など
  • 長時間の座位時間を減らす:1時間に一度は立ち上がって動く

運動の効果は一時的なものではなく、継続することが重要です。無理なく続けられる運動を見つけ、日常生活に取り入れましょう。また、運動前後の血糖値チェックや水分補給など、安全に運動するための注意点も押さえておくことが大切です。

体重管理:適正体重の維持

肥満、特に内臓脂肪型肥満はインスリン抵抗性を高め、2型糖尿病の大きなリスク因子となります。適正体重の維持は糖尿病予防の重要な柱です。

体重減少のためには、食事と運動の両面からアプローチすることが効果的です。急激なダイエットではなく、無理のない範囲で継続できる方法を選びましょう。体重の5-10%の減量でも、糖尿病発症リスクは大幅に低下することが研究で示されています。

最近では、GLP-1受容体作動薬などの肥満症治療薬も保険適用で使用できるようになりました。肥満症と診断された場合は、専門医に相談することも選択肢の一つです。

糖尿病の早期発見と定期検診の重要性

糖尿病は初期には自覚症状がほとんどないため、定期的な健康診断が早期発見の鍵となります。

健康診断で注目すべき検査値

健康診断では以下の検査値に注目しましょう:

  • 空腹時血糖値:126mg/dL以上で糖尿病が疑われる
  • HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー):6.5%以上で糖尿病と診断される
  • 75g経口ブドウ糖負荷試験:より詳細に糖代謝を評価できる
  • 尿糖:陽性の場合は血糖値が高い可能性がある

これらの検査値が基準値を超えている場合は、医療機関での精密検査が必要です。また、正常範囲でも境界域にある場合は「糖尿病予備群」として注意が必要です。

糖尿病予備群(境界型)について

糖尿病予備群とは、正常と糖尿病の間の状態を指します。具体的には以下の状態が該当します:

  • 空腹時血糖値:110〜125mg/dL(IFG:空腹時血糖異常)
  • 75g経口ブドウ糖負荷試験2時間値:140〜199mg/dL(IGT:耐糖能異常)
  • HbA1c:5.7〜6.4%

糖尿病予備群は、将来的に糖尿病を発症するリスクが高い状態です。しかし、この段階で生活習慣の改善に取り組むことで、糖尿病への進行を防ぐことができます。早期の介入が非常に重要なのです。

まとめ:糖尿病予防のために今日からできること

糖尿病は一度発症すると完全に治すことは難しいですが、予防は可能です。この記事でご紹介した内容をもとに、糖尿病予防のために今日から取り組めることをまとめます。

  • バランスの良い食事:食物繊維を多く含む食品を積極的に摂取し、糖質や脂質の過剰摂取を避ける
  • 定期的な運動:週に150分以上の有酸素運動と週2回以上の筋力トレーニングを心がける
  • 適正体重の維持:BMI 22を目標に、無理のない範囲で体重管理を行う
  • 定期的な健康診断:年に一度は健康診断を受け、血糖値やHbA1cをチェックする
  • 十分な睡眠とストレス管理:質の良い睡眠を確保し、ストレスを溜めない生活習慣を心がける

糖尿病の予防は、一人ひとりの日々の小さな努力の積み重ねが大切です。この記事が皆様の健康維持のお役に立てれば幸いです。

糖尿病に関する詳しい診断や治療については、専門医への相談をお勧めします。当院では糖尿病専門医による診療を行っておりますので、お気軽にご相談ください。

いんざい糖尿病・甲状腺クリニックでは、糖尿病専門医・肥満症専門医による専門的な診療を提供しております。糖尿病の予防から治療まで、患者さん一人ひとりに合わせたオーダーメイドの医療をご提案いたします。

【著者情報】

院長 髙橋 紘(たかはし ひろ)

いんざい糖尿病・甲状腺クリニック 院長。
日出学園小学校、攻玉社高等学校を経て、埼玉医科大学医学部医学科を卒業。東京慈恵会医科大学大学院医学系研究科を修了し、医学博士を取得。

2010年より東京慈恵会医科大学附属病院にて初期研修を開始し、その後、糖尿病・代謝・内分泌内科を専門に臨床・教育・研究に従事。富士市立中央病院や東京慈恵会医科大学附属第三病院での勤務を経て、2023年からは同附属病院糖尿病・代謝・内分泌内科にて外来医長を務める。2024年6月、千葉県印西市に「いんざい糖尿病・甲状腺クリニック」を開院。

また、東京慈恵会慈恵看護専門学校や日本看護協会看護研修学校で非常勤講師として教育にも携わる。

資格・所属学会

医学博士

日本内科学会 総合内科専門医

日本糖尿病学会 糖尿病専門医・指導医

日本内分泌学会 内分泌代謝科専門医・指導医

日本肥満学会 肥満症専門医

難病指定医

小児慢性特定疾患指定医

 

 

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