知らないと危険!糖尿病の初期症状と最新治療アプローチ
糖尿病は、早期発見・早期治療が極めて重要な疾患です。初期症状を見逃してしまうと、将来的に深刻な合併症を引き起こすリスクが高まります。この記事では、糖尿病の初期症状から最新の治療法まで、専門医の視点から詳しく解説します。
糖尿病は、血液中のブドウ糖(血糖)の濃度が膵臓から分泌されるインスリンというホルモンの働きが低下することで慢性的に高くなってしまう病気です。日本では年々患者数が増加しており、2025年現在も重要な健康課題となっています。
私はこれまで大学病院で10年以上にわたり糖尿病診療に携わってきました。その経験から、早期発見・早期介入の重要性を日々実感しています。
糖尿病とは?基本的なメカニズムと種類
糖尿病は、インスリンの作用不足により血糖値が慢性的に高い状態が続く代謝性疾患です。血糖値を調整するホルモンであるインスリンが十分に働かないことで発症します。
糖尿病には主に以下の種類があります:
- 1型糖尿病:主に自己免疫を基礎にした膵臓β細胞の破壊により生じる糖尿病です。インスリンが絶対的に不足するため、インスリン治療が不可欠です。
- 2型糖尿病:インスリンの分泌低下やインスリン抵抗性(効きにくさ)が原因で起こります。日本人の糖尿病の約95%がこのタイプです。
- 妊娠糖尿病:妊娠中に初めて発見・発症した糖代謝異常です。
- その他の特定の機序・疾患による糖尿病:遺伝子異常、膵臓疾患、薬剤などが原因で発症する糖尿病です。
私の臨床経験では、2型糖尿病の患者さんが圧倒的に多いですが、1型糖尿病の患者さんも決して少なくありません。それぞれのタイプによって治療アプローチが異なるため、正確な診断が重要です。
見逃しやすい糖尿病の初期症状
糖尿病の初期段階では、症状がないか、あっても軽微なことが多いため見逃されがちです。しかし、以下のような症状が現れたら注意が必要です。
高血糖による典型的な症状
血糖値が高くなると、体はそれを尿として排出しようとします。その結果、次のような症状が現れることがあります:
- 喉の渇き(口渇)と多飲:高血糖によって体内の水分が奪われ、異常な喉の渇きを感じます。
- 頻尿:高血糖によって腎臓が余分な糖分を尿として排出するため、トイレに行く回数が増えます。
- 疲労感・倦怠感:細胞にエネルギーが十分に供給されないため、全身の倦怠感を感じることがあります。
- 原因不明の体重減少:十分に食べているのに体重が減少することがあります。
見落としがちな非典型的症状
典型的な症状以外にも、以下のような症状が糖尿病の初期サインとなることがあります:
- 視力の変化:血糖値の変動により、一時的に視力が変化することがあります。
- 皮膚の異常:かゆみ、乾燥、感染症などが起こりやすくなります。
- 傷の治りが遅い:高血糖は血流を悪化させ、傷の治癒を遅らせます。
- 手足のしびれや痛み:神経障害の初期症状として現れることがあります。
臨床現場では、これらの症状で来院される患者さんが多いですが、ご自身では糖尿病とは気づいていないケースがほとんどです。特に、「なんとなく疲れやすい」「水をよく飲む」といった症状は日常生活の中で見逃されがちです。
どうですか?これらの症状に心当たりはありませんか?
糖尿病の診断基準と検査方法
糖尿病の診断には、いくつかの検査方法があります。最も一般的な検査と診断基準を紹介します。
主な検査項目
- 空腹時血糖値:8時間以上の絶食後に測定する血糖値です。126mg/dL以上で糖尿病が疑われます。
- 経口ブドウ糖負荷試験(OGTT):75gのブドウ糖を摂取後、2時間後の血糖値を測定します。200mg/dL以上で糖尿病と診断されます。
- HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー):過去1〜2ヶ月の平均血糖値を反映する指標です。6.5%以上で糖尿病と診断されます。
- 随時血糖値:食事の時間に関係なく測定した血糖値です。200mg/dL以上で、糖尿病の典型的な症状がある場合は糖尿病と診断されます。
糖尿病予備群(境界型)の判定基準
糖尿病と診断されるほどではないものの、正常範囲よりも高い血糖値を示す状態を「糖尿病予備群」または「境界型」と呼びます。具体的な判定基準は以下の通りです:
- 空腹時血糖値:110〜125mg/dL
- 75g経口ブドウ糖負荷試験2時間値:140〜199mg/dL
- HbA1c:5.6〜6.4%
私の臨床経験では、健康診断でHbA1cが5.7%以上と指摘されても放置される方が非常に多いです。しかし、この段階で適切な生活習慣の改善を行えば、糖尿病への進行を防げるケースが多いのです。
糖尿病予備群の段階で介入することが、将来の合併症リスクを大きく下げる鍵となります。
糖尿病を放置するとどうなるか?合併症のリスク
糖尿病を放置すると、全身のさまざまな臓器に合併症を引き起こす可能性があります。高血糖状態が長期間続くことで、血管や神経にダメージが蓄積されていくためです。
主な合併症とそのリスク
- 細小血管合併症
- 糖尿病性網膜症:失明の主要な原因となります。
- 糖尿病性腎症:腎不全を引き起こし、透析が必要になることもあります。
- 糖尿病性神経障害:手足のしびれや痛み、自律神経の障害などを引き起こします。
- 大血管合併症
- 心筋梗塞:冠動脈の動脈硬化により発症リスクが高まります。
- 脳卒中:脳血管の障害により発症リスクが高まります。
- 末梢動脈疾患:下肢の血流障害により、重症化すると足の切断が必要になることもあります。
私が大学病院で診療していた際、糖尿病を10年以上放置した結果、深刻な合併症を発症して初めて受診される患者さんが少なくありませんでした。特に、40代で透析導入となったケースや、50代で視力を失ったケースなど、適切な治療があれば防げたはずの合併症に苦しむ患者さんを多く見てきました。
糖尿病の怖さは、初期には自覚症状が乏しいため放置されやすく、気づいたときには合併症が進行していることにあります。定期的な健康診断と、異常を指摘された場合の早期受診が極めて重要です。
2025年最新の糖尿病治療アプローチ
糖尿病治療は近年大きく進歩しています。2025年現在の最新治療アプローチについて解説します。
生活習慣の改善(食事・運動療法)
糖尿病治療の基本は、依然として食事療法と運動療法です。最新のアプローチでは、個々の生活スタイルに合わせたオーダーメイドの治療プランが重視されています。
- 食事療法:単なるカロリー制限ではなく、食事のタイミングや食品の組み合わせ、質を重視したアプローチが主流となっています。
- 運動療法:有酸素運動と筋力トレーニングを組み合わせることで、インスリン感受性を高める効果が期待できます。週150分以上の中等度の有酸素運動が推奨されています。
私のクリニックでは、患者さんのライフスタイルに応じた「100人100通」のオーダーメイド治療を提案しています。画一的な指導ではなく、その方の生活リズムや嗜好に合わせた無理のない改善策を一緒に考えていくことが重要です。
最新の薬物療法
薬物療法も大きく進化しています。特に注目されているのは以下の治療薬です:
- SGLT2阻害薬:腎臓での糖の再吸収を阻害し、尿中に糖を排出することで血糖値を下げます。心不全や腎保護作用も報告されており、糖尿病の枠を超えた治療薬として注目されています。
- GLP-1受容体作動薬:インスリン分泌を促進し、食欲を抑制する効果があります。週1回の注射製剤も登場し、利便性が向上しています。2025年現在、肥満症治療薬としても保険適用されています。
- GIP/GLP-1受容体作動薬:2つのホルモン作用を持つ新しい薬剤で、強力な血糖降下作用と体重減少効果が期待できます。
最先端デバイスによる血糖管理
テクノロジーの進化により、血糖管理も格段に便利になっています:
- 持続血糖測定(CGM):皮膚に穿刺したセンサーで24時間血糖値を測定し、スマートフォンなどで確認できるシステムです。フリースタイルリブレ2やDexcom G7などの機器が普及しています。
- インスリンポンプ:24時間体内にインスリンを供給する小型の装置で、より生理的なインスリン投与が可能になります。
- クラウドシステムによるデータ連携:患者さんの血糖データをクラウド上で医療者と共有することで、遠隔でも適切な指導が可能になっています。
当院では、これらの最先端デバイスの外来導入を積極的に行っています。特にCGMは、患者さんの血糖変動パターンを視覚化することで、より効果的な治療介入が可能になります。
1型糖尿病の最新治療法と将来展望
1型糖尿病は、膵臓のβ細胞が破壊されてインスリンがほとんど分泌されなくなる自己免疫疾患です。現在の標準治療はインスリン補充療法ですが、根治を目指した新たな治療法の研究も進んでいます。
インスリン療法の進化
1型糖尿病の治療は、インスリン注射やインスリンポンプによるインスリン補充が基本です。最新のアプローチとしては:
- 超速効型・持効型インスリン:より生理的なインスリン作用を再現できる製剤が開発されています。
- ハイブリッドクローズドループシステム:CGMとインスリンポンプを連動させ、半自動的に血糖値をコントロールするシステムです。
再生医療と根治を目指した治療法
1型糖尿病の根治を目指した治療法の研究も進んでいます:
- 膵島移植・膵臓移植:ドナーの膵島細胞や膵臓を移植する治療法です。日本ではドナー不足が課題となっています。
- 幹細胞治療:幹細胞から分化したインスリン産生細胞の移植研究が進んでいます。2025年には幹細胞から分化した膵島細胞を移植する臨床試験で、インスリン療法から離脱に成功したという画期的な報告がありました。
- バイオ人工膵島移植:医療用ブタの膵島を特殊なカプセルで包み、患者に移植する方法の研究が進められています。
1型糖尿病の根治治療は、まさに医学の最前線です。当院では最新の情報を常にアップデートし、患者さんに最適な治療選択肢を提供できるよう努めています。
糖尿病予防のための生活習慣改善ポイント
糖尿病、特に2型糖尿病は生活習慣の改善によって予防できる可能性があります。以下に重要なポイントをまとめます。
食事習慣の見直し
- バランスの良い食事:野菜、果物、全粒穀物、魚、豆類などを中心とした食事を心がけましょう。
- 食事のタイミング:1日3食規則正しく食べることで、血糖値の急激な変動を防ぎます。
- 糖質の摂り方:単純糖質(白米、白パン、砂糖など)の過剰摂取を控え、食物繊維を多く含む複合糖質を選びましょう。
- 適切な量:腹八分目を意識し、過食を避けましょう。
効果的な運動習慣
- 有酸素運動:ウォーキング、ジョギング、サイクリングなどを週に150分以上行うことが推奨されています。
- 筋力トレーニング:筋肉量を増やすことでインスリン感受性が高まります。週に2回以上の筋トレを取り入れましょう。
- 日常活動量の増加:エレベーターではなく階段を使う、少し遠くに駐車するなど、日常生活での活動量を増やす工夫も効果的です。
その他の重要な生活習慣
- 適正体重の維持:特に腹部肥満は2型糖尿病のリスク因子です。BMI 25未満、男性の腹囲85cm未満、女性の腹囲90cm未満を目標にしましょう。
- 禁煙:喫煙はインスリン抵抗性を高め、糖尿病リスクを増加させます。
- 適度な飲酒:過度の飲酒は避け、休肝日を設けましょう。
- 質の良い睡眠:睡眠不足はインスリン抵抗性を高めることが知られています。7-8時間の質の良い睡眠を心がけましょう。
- ストレス管理:慢性的なストレスは血糖値を上昇させる可能性があります。適切なストレス管理法を見つけましょう。
私の臨床経験では、急激な生活習慣の変更は長続きしないことが多いです。「できることから少しずつ」が継続の秘訣です。小さな成功体験を積み重ねることで、持続可能な生活習慣の改善につながります。
まとめ:糖尿病との上手な付き合い方
糖尿病は、早期発見・早期治療が何よりも重要な疾患です。初期症状を見逃さず、定期的な健康診断を受けることが予防の第一歩となります。
糖尿病と診断された場合も、現代の医療は多くの選択肢を提供しています。食事・運動療法を基本としながら、必要に応じて薬物療法や最新デバイスを活用することで、合併症のリスクを大幅に減らすことが可能です。
特に重要なのは、「糖尿病と共に生きる」という視点です。糖尿病は「治す」というよりも「コントロールする」疾患です。適切な治療を継続しながら、質の高い生活を送ることが目標となります。
当院では、患者さん一人ひとりのライフスタイルに合わせた「100人100通」のオーダーメイド治療を提供しています。糖尿病専門医・肥満症専門医・内分泌代謝科専門医として、最新の医学的知見に基づいた質の高い医療を提供することをお約束します。
糖尿病に関する不安や疑問がある方は、ぜひ一度専門医にご相談ください。早期の適切な介入が、あなたの未来の健康を大きく左右します。
詳しい情報や診療のご予約は、いんざい糖尿病・甲状腺クリニックまでお気軽にお問い合わせください。
【著者情報】
院長 髙橋 紘(たかはし ひろ)

いんざい糖尿病・甲状腺クリニック 院長。
日出学園小学校、攻玉社高等学校を経て、埼玉医科大学医学部医学科を卒業。東京慈恵会医科大学大学院医学系研究科を修了し、医学博士を取得。
2010年より東京慈恵会医科大学附属病院にて初期研修を開始し、その後、糖尿病・代謝・内分泌内科を専門に臨床・教育・研究に従事。富士市立中央病院や東京慈恵会医科大学附属第三病院での勤務を経て、2023年からは同附属病院糖尿病・代謝・内分泌内科にて外来医長を務める。2024年6月、千葉県印西市に「いんざい糖尿病・甲状腺クリニック」を開院。
また、東京慈恵会慈恵看護専門学校や日本看護協会看護研修学校で非常勤講師として教育にも携わる。
資格・所属学会
医学博士
日本内科学会 総合内科専門医
日本糖尿病学会 糖尿病専門医・指導医
日本内分泌学会 内分泌代謝科専門医・指導医
日本肥満学会 肥満症専門医
難病指定医
小児慢性特定疾患指定医
